腐っているから腐れ縁なのだ。

 

 

山上という友人がいる。

初めて会ったのは、10歳の秋だっただろうか。

 

それまで母一人子一人で暮らしてきて、まあこれから先も

ずっとそんな感じで暮らして行くんだろうな、と思っていたのだが

母親が当時務めていた飲み屋の客と何だかそういう関係になったらしく

お互いバツイチということからか、籍は入れずとも同居という

事実婚状態での義父一人母一人子一人の三人暮らしが始まることになった。

 

それと同時に、縁もゆかりも無い場所へ引っ越すことになり

人生で初めての「転校」というものを体験したわけなのだが、

全校生徒の人数は300人に満たず、同学年は自分を含めても48人。

1クラスが24人で漸く2組あるという、差し詰め小さな学校だった。

 

そんな小学校で同じクラスになった級友23人の中に

前述の山上も居たわけだが、今思い返してみても小学時代の彼は

少数精鋭の中ですらパッとしなかったし、寧ろ私の記憶では

周りのやんちゃな男にからかわれて耳まで真っ赤にしながら

くりくりした瞳に涙を溜めている様な駄目な男の子だったと思う。

 

幼少期というのは、走るのが速い男の子が何故かモテる。

多分に、運動神経の良いちょっとやんちゃな感じのする男が

モテるというのはどの年代でも同じなのだろうが、学童期には

とにかく足の速い男の子がモテていた様な気がする。

 

山上も、走るのが速かった。

それでも女の子たちから見向きもされていなかったのは

あいつのスーパー人見知り属性の所為だということにしておくとして。

 

そんな、足が速くて顔もそんなに悪くないのにモテない山上は

隣のクラスの姫香ちゃんという子に長らく片想いをしていたらしく、

山上が男子連中に泣かされるのは決まって姫香ちゃんのことだった。

 

「なあ山上、お前姫香の何処が好きなんだよ?」

「べ、別に好きじゃねーし!」

「ウソつけ~!姫香呼んできてやるよ!」

 

廊下で大きな声で毎日こんなやり取りをするもんだから

姫香ちゃん本人も山上の気持ちを知っていたし、だからこそ

山上も恥ずかしくて悔しくて泣いていたんだと思うけど

若干小5のクソガキからしてみれば、格好の獲物でしかなかった。

 

小5男子なんてうんこちんこに毛が生えたくらいの話しかしないし、

小学校卒業間近の時期ですら、某アニメで女性パイロットの乳が

揺れるのを見ながら「見ろ!ブルンブルンしてるぞ!」とか

手振り付きで解説して興奮から鼻血吹いてたりしてたから、うん。

 

まあ、そんな柴田くんの話題はいずれ何処かでするとして。

 

 

当時の私は山上に一切興味がなかったし、

山上も多分姫香ちゃんのことしか頭になかったと思うけど

その山上が言うには、何度か一緒に遊んだりもしていたのだという。

……正直、知らない。多分山上の勝手な妄想。

 

ここまで話しておいて何だが、学生時代の山上に対しての印象は

「姫香ちゃんの名前が出るとすぐ泣く、逃げ足の速い男」というだけ。

中学でも一度同じクラスになったり、高校もすぐ隣の学校だったりしたし

何らかの接点があっても良さそうなものだったのだが、それも皆無。

 

高校卒業後に偶然地域行事に居合わせ、言葉を交わすまでは

お互いの携帯番号やメールアドレスなんてものも知らなかったのだが

そこから暫く、一週間のうち2~3日は一緒に過ごしていた気がする。

 

 

今でこそチャラチャラしていて女の子大好きな山上も

まだその頃は清い奴で、歴代彼女も経験人数もたった1人だった。

女友達を紹介してやって飯会を開いても、人見知り発動で

最後の最後まで相槌しか打たない様な扱いづらい奴だった。

 

そのくせ口だけは達者で、二人で居るときには

「こんな女の子と付き合いたい」だの「こういう男になる」だの

大口を叩いてみたり。まあ、其処に関しては未だに変わってない。

 

 

20歳の夏、そんな山上を好きになった。

きっかけというきっかけがあったわけではないのだけれど

3人目の女友達を山上に紹介した日、その友人からたった一言

「佐伯の好きな男盗ったりする趣味ないけど」と言われてしまう。

 

あーそうなのか、私は山上のことが好きなのか、と。

 

確証も実感もないまま始まった恋だったが、山上が新しい彼女との

プリクラを見せ付けてきた日には部屋に籠もって泣いたし

彼女と上手く行っていないと相談されれば、別れろと願いながらも

真っ直ぐにアドバイスし、その後仲直りの報告を聞いてまた泣いた。

 

「私、女だけど、結婚式には呼んでよ。山上のこと大好きなんだから」

 

当時の私の精一杯の告白に、山上は「おう!」と笑って言った。

 

山上の歴代彼女の名前や経験人数が増えていくに連れ、

私の山上を恋い慕う気持ちも次第に冷めて行ったのだけれど

何だかんだ言ってもう家族みたいなもんで、

いつか山上が今のチャラチャラした女遊びをやめて

本当に好きな人と結婚するときには、誰よりも祝福してやりたい。

 

 

そんな友人、山上から先ほど届いたメッセージには

「暇なんで女の子紹介してください!」と書いてあった。

 

 

………………前言撤回、山上なんて不幸になってしまえ。