対人関係というのには必ず優劣がある。

 

 

 

暑い、ただただ暑い。

 

髪の毛が所謂下乳(ないけど)の辺りまで伸びているせいで

心地良い風が吹いても髪の毛がリップを塗った口唇にべったあああああと

引っ付いて何とも気持ち悪いし、皮脂で化粧が浮いてテッカテカだし、

漸く花粉によって強いられていたマスク生活から解放されたはずが

マスク生活の何倍も生きづらくなっているこの季節が非道く疎ましい。

 

太腿の内側やら二の腕やらを意識的に狙ってきているとしか思えない

一般的に蚊と呼ばれるフェチズムスターの種族にもほとほと困り果てた。

 

夏は比較的嫌いじゃないんだけどなあ…働くには向かない季節だ。

 

 

 

働く、といえば。

半年以上前のこの記事が今話題になっているのを見掛けたのだが。

http://anond.hatelabo.jp/20131204235901

 

 

思い返すこと数年前、私が17になったばかりの頃だっただろうか。

コールセンターとまでは呼ばないが、職種としてはこの方が言うのと

似たような職種の現場に派遣され、結果的に2年程そこに勤めていた。

 

食品配達業者で、顧客からの電話対応や事務処理をしていたのだが

食品配達業という時点で察される通り、顧客層はほぼ二種類。

まず、主婦。これについては専業主婦に働く主婦、妊婦さんも含まれる。

そして、高齢者。ほとんどの顧客がこのどちらかに該当していた。

 

基本的なマニュアルとしては、電話で食品配達の注文を受けることが

メインだと教えられていたのだが、これがそもそもの間違い。

実際電話に出てみるとその殆どが商品や配達員に対してのクレーム

もしくは、こちらへ無理難題を押し付けようとするものばかりだった。

 

顧客層から考えても、そうなるのは周知の事実とも言えるのだが

当時弱冠17歳、単位制高校を卒業した直後で、アルバイト経験のみ。

そんな世の中の黒い部分を知り切れていない身には分かるはずもなく。

 

ただでさえ理不尽なことが嫌いで、納得の行かない限りは他人に

頭を下げることすら拒むような生き方をして17年を過ごしてきた人間が

学生生活を終えたばかりで放り込まれるべき場所ではなかった。

自分でそう実感したのは、19歳で今の職場に移された後のことだった。

 

 

「頼んだ覚えのないものばかりが届いている」と言われ、平謝りしつつ

原因を調べると、本人が見ていた商品カタログが全く違う週のカタログで

注文番号の全てが相違していた、なんてことはもう日常茶飯事。

それを「必要ないから全て返品したい」と言われるのも毎回のこと。

 

個人的な考えとしては、その言い分は明らかにおかしいと思うのだが

(一度買って手元に届いた食品を、返すから取りに来いと言うのだから)

顧客の信頼と満足を得る為には致し方がない。そう教えられていた為に

その申し出を受け入れ、わざわざ配達員が商品を回収に行くことになる。

 

人によっては「これから出かけるから」「冷蔵庫に入らないから」と

食品を届いたときの発泡スチロールに入れ、溶け掛けの保冷剤とともに

玄関先に放り出してあったりするらしいのだ。これには笑うしかない。

 

自分が不要と判断すれば、そっくりそのままゴミ同然に扱われる。

その返品された食品を別の人に売り歩くわけにも行かず、配達員は

事務所へと持ち帰ってくる。で、職員に声を掛けて皆でそれを買い取る。

 

だが、例えば顧客は「アイスクリーム」が届くつもりで頼んだものが

その週には「高級瓶入り牛乳」として届いていたりするもんで、

更にはその数量が15点だったとき、それとほぼ同数しか居ない事務所の

空気が一気に重くなったりするのは至極当たり前のことと言えるだろう。

つまりは「皆で1本ずつ買う」という暗黙の了解が生じてしまうのだ。

 

 

すっかり話が逸れてしまった。

 

他にも、卵が割れていたから新しいのを持ってこいと言われて

持って行ってもその割れてしまったという卵は返して貰えなかったり

配達日から数日経って頼んだ商品が入っていなかったから返金しろと

しょっちゅう同じ人から電話が掛かってきていたり……

グレーゾーンと呼ぶに相応しいクレームだらけだった気がするのだが

そういう相手に限ってどうにも「怒り心頭」な様子で掛けてくるのだ。

 

何というか、明らかにこちらのミスで生じたような問題でも

申し訳なさそうな声色で電話を掛けてくる人も居たし

特有の笑い声を上げながら「やーもうごめんなさいねー」なんて

返品を強請ってく…ゴホン、そんなおばちゃんも居たのだが

理不尽だな、と思うクレームのときほど理不尽に怒鳴られた記憶がある。

 

私には理解らない様なストレスを抱えながら家に帰ってきて

そんな中で更なるイライラの原因になってしまったのかもしれない。

 

しかしながら、顔が見えないというのは本当に恐ろしいもので

自分の子供や孫と変わらない年齢の相手に向かって、金切り声で

「こんなことが続くならもう頼まないわよ!」と怒鳴り散らすのだ。

社会人として、会社側として、電話を受けているのだから

こちらとしても別段甘やかして欲しかった訳ではないのだけれど

心に余裕がないのは悲しいことだな、と思って私は少し哀れんでいたし

娘や孫くらいの年頃の娘に哀れまれるというのも、また悲しいことだ。

 

 

結局そういう悪印象なものほどどうしても取り立てて話しやすいのだが

中にはお話し好きなおばあちゃんも居て、そんなおばあちゃんは

決まって配達が済んだ後に電話を掛けてきてはすごく楽しそうに

先週頼んだあのお菓子はすごく美味しかったのよ~とか

今週のレタスは少し傷んでいたわね、とか話してくれるのだが

これが返品だとか取り寄せだとかそういう要望に繋がることもないまま

一時間から二時間ほどずっと聞いていなければならなかったりもした。

 

私自身、自分の祖母と話したりする機会もほとんどなかったので

割と楽しかった気もするが、名指しで電話を繋がれるのはつらかった。

 

 

そんなこんなで2年間。

 

知らない誰かが、私とは全く関係のないことで、私に向かって怒る。

これは苦痛でしかないと思っていたし、謝ることも嫌で堪らなかった。

 

 

しかし、今考えてみれば私は優位な立場に居たと思うのだ。

 

パソコンで顧客番号を入力してしまえば、その顧客のフルネームや

電話番号、住所、生年月日や更には家族構成まで出て来る。

そして、その顧客が過去にどんな物を注文していたのかまで分かる。

それというのは、如何に恐ろしいことなのだろうか。

 

 

私はそこで過ごした二年間を時折思い返しては

なるべくなら苦情など言わずに生きていたいと思うし、

それが無理でもメールで済ませたい、とも思って生きている。

 

 

 

それにしても、今日は暑すぎる。

気象庁に苦情の電話を入れれば、少しはマシになるだろうか。